僕は初めて恋をした・・・。
相手は苺のショートケーキさん。
名前は「イチエさん」って言うんだ。
校庭で文化祭の練習をしていたら、甘い音色が聞こえてきた。
僕はこっそり練習を抜け出して、その音色に近づいて行ったんだ。
すると、バイオリンを奏でる苺のショートケーキさんの姿があった・・・。
それが僕の恋の始まりだった。
家に帰ると、夕飯は僕の大好物の「栗ご飯」だった。
今年初めての栗ご飯。
でも僕は何だか胸がいっぱいで、2杯しか食べられなかった・・・。
お母さんは不思議そうに僕を見ていたな。
それから何日か考えて、僕は手紙を書くことにした。
何度も何度も書き直した。
想いを伝えるって、難しいね。
ようやく完成した手紙を和紙の封筒に入れて、イチエさんに渡した。
笑顔で受け取ってもらえた時には、舞い上がるようだった。
・・・でも、大変なのはこれからだった。
毎日、ドキドキして、落ち着かない。
何も手につかないとか、うわの空とかって、こういうことなんだ。
大好きな栗ご飯も、たった1杯しか食べられない・・・。
そんな日が続いたんだ・・・。
それから何日かして、僕は見てしまった・・・。
スラリと長身の、チョコレートケーキさんと楽しそうに話しているところを・・・。
チョコレートケーキさんと言えば、かっこ良くて、スポーツ万能で生徒会長もしている。
・・・僕はクラスの園芸委員・・・。
僕は、僕は・・・とてもショックだった・・・・。
がっクリ・・・・・・。
しばらくそこを動けなかった・・・。
ずいぶん経ってから、もう一度ふたりの様子を見た。
そして僕は気づいたんだ。
チョコレートケーキさんが手に持っているのは、外国のおしゃれなファッション誌。
本屋さんで見たことあるぞ・・・。
そうか、僕もその本に載っているような素敵な服を着たら、苺のショートケーキさんと
お話しできるかも知れない!
こんな時でも、僕はなかなか冷静だなぁ。
これから同じ本を買って、最新の服を買うんだ。
僕はあきらめないぞ!!
「お兄ちゃん、どこに行くの?」
妹の栗子が聞いてきた。
僕は栗子と一緒に、最新ファッション誌に載っている秋の新作を見に行くことにした。
カラフルな色の服がたくさんあった。
かぼちゃ色、木いちご色、抹茶色、紅芋色などなど・・・みんなカラフルだなあ。
こんな素敵な服を着たら、きっと僕もチョコレートケーキさんみたいになれるね!
どれにしようかなぁ・・・。
目移りしていたら、妹の栗子が耳元でささやいた。
「お兄ちゃん、やっぱり栗色がお兄ちゃんには一番しっクリくるね。」・・・と。
・・・僕より栗子の方がずっと冷静だった。
僕は何も買わずにお店を出た。
帰り道、夕焼けがとてもきれいだった。
「お兄ちゃん、この花、何ていう名前?」
「萩の花だよ。秋の花なんだ。」
「お兄ちゃん、お花の名前、何でも知ってるんだね。」
行きは夢中で気づかなかったけれど、お店までの道のりはなかなか遠かった。
・・・栗子もよくついてきたなぁ・・・。
家に帰ると、今年3回目の栗ご飯だった。
お腹がすいて、僕はいつものように4杯食べた。
美味しいなぁ・・・。
栗子も、お父さんも、お母さんもいつもより1杯多く食べた。
僕は何だか嬉しかった。
食べ終わると、栗子はその場に寝てしまった。
お父さんは少し前かがみに歩きながら、ちょっと苦しそうに階段を上がっていった・・・。
お母さん、いつもよりたくさん炊いてくれたんだね。
僕は何だか元気が出てきた。
僕、あきらめないで頑張るからね。
今日、僕は気づいたんだ・・・。
僕はずっと前から、大切なもの、たくさん持っていたんだね。
「僕の恋」 記:栗太郎
| 2011.10.01 Saturday