「僕の恋」 記:栗太郎 

| 2011.10.01 Saturday

僕は初めて恋をした・・・。

相手は苺のショートケーキさん。
名前は「イチエさん」って言うんだ。

校庭で文化祭の練習をしていたら、甘い音色が聞こえてきた。
僕はこっそり練習を抜け出して、その音色に近づいて行ったんだ。

すると、バイオリンを奏でる苺のショートケーキさんの姿があった・・・。
それが僕の恋の始まりだった。


家に帰ると、夕飯は僕の大好物の「栗ご飯」だった。
今年初めての栗ご飯。

でも僕は何だか胸がいっぱいで、2杯しか食べられなかった・・・。
お母さんは不思議そうに僕を見ていたな。

それから何日か考えて、僕は手紙を書くことにした。
何度も何度も書き直した。
想いを伝えるって、難しいね。


DPP_6001KNロゴ.jpg


ようやく完成した手紙を和紙の封筒に入れて、イチエさんに渡した。
笑顔で受け取ってもらえた時には、舞い上がるようだった。
・・・でも、大変なのはこれからだった。

毎日、ドキドキして、落ち着かない。
何も手につかないとか、うわの空とかって、こういうことなんだ。

大好きな栗ご飯も、たった1杯しか食べられない・・・。


そんな日が続いたんだ・・・。
それから何日かして、僕は見てしまった・・・。
スラリと長身の、チョコレートケーキさんと楽しそうに話しているところを・・・。
チョコレートケーキさんと言えば、かっこ良くて、スポーツ万能で生徒会長もしている。

・・・僕はクラスの園芸委員・・・。
僕は、僕は・・・とてもショックだった・・・・。


IMG_1356KNロゴpsd.jpg


がっクリ・・・・・・。

しばらくそこを動けなかった・・・。

ずいぶん経ってから、もう一度ふたりの様子を見た。
そして僕は気づいたんだ。
チョコレートケーキさんが手に持っているのは、外国のおしゃれなファッション誌。
本屋さんで見たことあるぞ・・・。

そうか、僕もその本に載っているような素敵な服を着たら、苺のショートケーキさんと
お話しできるかも知れない!
こんな時でも、僕はなかなか冷静だなぁ。
これから同じ本を買って、最新の服を買うんだ。
僕はあきらめないぞ!!


「お兄ちゃん、どこに行くの?」
妹の栗子が聞いてきた。
僕は栗子と一緒に、最新ファッション誌に載っている秋の新作を見に行くことにした。


カラフルな色の服がたくさんあった。
かぼちゃ色、木いちご色、抹茶色、紅芋色などなど・・・みんなカラフルだなあ。
こんな素敵な服を着たら、きっと僕もチョコレートケーキさんみたいになれるね!
どれにしようかなぁ・・・。
目移りしていたら、妹の栗子が耳元でささやいた。


IMG_1366KNのコピー.jpg


「お兄ちゃん、やっぱり栗色がお兄ちゃんには一番しっクリくるね。」・・・と。

・・・僕より栗子の方がずっと冷静だった。


僕は何も買わずにお店を出た。


帰り道、夕焼けがとてもきれいだった。


「お兄ちゃん、この花、何ていう名前?」
「萩の花だよ。秋の花なんだ。」
「お兄ちゃん、お花の名前、何でも知ってるんだね。」


行きは夢中で気づかなかったけれど、お店までの道のりはなかなか遠かった。
・・・栗子もよくついてきたなぁ・・・。


家に帰ると、今年3回目の栗ご飯だった。

お腹がすいて、僕はいつものように4杯食べた。
美味しいなぁ・・・。

栗子も、お父さんも、お母さんもいつもより1杯多く食べた。
僕は何だか嬉しかった。

食べ終わると、栗子はその場に寝てしまった。
お父さんは少し前かがみに歩きながら、ちょっと苦しそうに階段を上がっていった・・・。

お母さん、いつもよりたくさん炊いてくれたんだね。

僕は何だか元気が出てきた。
僕、あきらめないで頑張るからね。


今日、僕は気づいたんだ・・・。

僕はずっと前から、大切なもの、たくさん持っていたんだね。

<< 1 2 >> 2ページ中2ページ目