この春、僕はずっと考えていたことがあった。
桜を眺めながら、お団子を食べながら、そのことはいつも頭にあった。
僕の和紙、典具帖紙(てんぐじょうし)
透けるくらい薄い和紙
僕のクリームも栗も、みんなこの和紙だからできるんだ。
もうひとつ大切なこと。
それば僕のマロン色
たくさんある茶色の中でも特別な色なんだ。
僕はその色を自分で染めてみたいって考えてたんだ。
でもどうやって・・・
何を使って・・・
それをずっと考えてた。
ある朝、僕はいつものように紅茶を飲んでいた。
ほわん~と湯気がたった時、僕はひらめいた!
「紅茶!!」
この優しい茶色なら、きっと僕の好きな色に染まるんじゃないかな。
それに紅茶はお菓子とも仲良しだよ。
僕はさっそく、いつも飲んでいる紅茶を作った。
バットに入れて、白い典具帖紙を浸した。
その瞬間、僕はハッとした!
薄い和紙が一瞬で溶けるようだった・・・
紅茶は黄金色のようで、キラキラとゼリーのよう。
僕はしばらくうっとり眺めていた。
でも優雅な気分なのは、ここまでだった。
和紙を取り出そうとしたら、くしゃくしゃになってしまった!
伸ばそうとしたら破れそうになって、そのまま乾かした。
形も悪くて、色も薄すぎた・・・・・・
でもこれくらいで僕はくじけない。
気をとりなおして、紅茶液を作った。
今度は苦くて飲めないくらい濃くした。
染める工程もいくつかあった。
ミョウバンってなに?
バイセンザイってなんのこと?
僕の知らないことだらけだった。
紅茶液を塗っては乾かし、塗っては乾かしを繰り返した。
和紙がくしゃくしゃにならないよう考えた。
いつもは冷たい美紀さんも今回はめずらしく協力してくれた。
これを乾かしたら最後だ・・・
「ねぇねぇ美紀さん、最後だから手伝ってぇ。」
僕は甘い声で頼んでみた。
「最後だから自分でやりなさい。」
やっぱり美紀さんは冷たかった。
乾くと色がまた変わるね。
僕が染めた和紙、どんな色になるのかな・・・・・・
僕の色(1) 記:栗太郎
| 2019.04.08 Monday
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